Insta360 Ace Proはなぜ暗所に強いのか?


 Insta360 Ace Pro というカメラを買いました。イメージセンサーが小型なのに暗所性能が素晴らしく良く、映像の安定性も素晴らしく良くて、既成のカメラの概念を覆すほどの高い性能があるからです。

その高性能を実現しているのは、現状の最先端の「5ナノ」演算(ロジック)半導体を使っているからです。現在市販されている民生用製品に使用されている最も「集積度」の高い半導体は「5ナノ」チップです。「集積度」は半導体チップがどれだけ多くの論理素子(論理演算を行う最小単位の回路)で構成されているかを意味します。「5ナノ」チップは現状最も性能や電力効率の高いチップです。2022年の半導体受託生産会社(ファウンドリー)の「5ナノ」演算半導体受注先は、アップルが53%を占め、2位のクアルコム(スナップドラゴン)を足すと8割近くをスマホチップが占めていました。しかし2023年に入って半導体の需給関係が少し緩んできたので、新たな重要に応えられるようになったのではないかと思われます。

iPhoneのカメラのレンズは貧弱でイメージセンサーは小型で高精細なために著しく低感度です。しかし薄くて小さい筐体に最も性能や電力効率の高い「5ナノ*」チップを搭載していて、この低感度映像を「補正」して画質を著しく改善します。その「補正」方法は不明です。
(*追記)iPhone
 15 Pro Max の新型チップ「A17 Pro」は業界初の「3ナノメートル」チップだそうです。力技映像補正の先頭を切っているのは依然としてiPhoneだということです。iPhone Proが「3ナノ」に進んだので「5ナノ」半導体を導入しやすくなったのかもしれません。

Insta360 Ace Proの1/1.3インチイメージセンサーはおそらくiPhone 15 Pro Maxのメインカメラとほぼ同じスペックと推定されます。しかしレンズはLeicaの高性能レンズでiPhoneよりかなり優れています。そして低感度映像を「補正」する方法もiPhoneとは違うと思われます。以下はわたしが推定するAce Proの「補正」方法です。

まず、小型で高精細のイメージセンサーであるにもかかわらず暗所性能が素晴らしいのはどうしてでしょうか。Insta360の1インチセンサーカメラには「Pure Shot」という写真撮影モードがあります。露出が異なる複数枚の写真を撮って合成し暗所でも素晴らしく鮮明な写真を撮ることができます。Insta360 Ace Proの低照度撮影モード「Pure Video」は、動画1コマ毎に「Pure Shot」を行なっていると推定できます。1秒間に120枚の写真を撮り、1コマを4枚の写真で合成して、1秒30コマ(30fps)ないし24コマ(24fps)の動画にしていると思われます。「Pure Shot」を動画撮影に使えるのは高速処理が可能な「5ナノ」チップを搭載しているからです。

次に、映像の安定性の高さです。Insta360カメラは6軸ジャイロスコープを搭載してカメラの位置と向きの変化量(重力加速度)のデータを録り、そのデータを使って動画映像のブレ補正(FlowState手ブレ補正と呼びます)を行ないます。これも1秒120枚の映像を使ってブレ補正していると思われます。そうすることによって1秒間のコマ数(フレームレート)が24ー30fpsに低下しても被写体ブレ(モーションブラー)がおきにくいので「ブレ補正」はかなり上手くいきます。これに対してGoProは、暗所ではフレームレートが下がりシャッター速度が遅くなってモーションブラーが強くなるので手ブレ補正が上手くいかない傾向があります。低照度下では大きな差がありますが、明るい陽光の下で撮影するのであればGoProの「手振れ補正」も問題はありません。

最後に、Insta360 Ace Proは1秒間に30コマ(30fps)以下のフレームレートでは自動的に「HDR」(ハイダイナミックレンジ)映像になります。これも「Pure Video」と同様に露出を変えた複数枚の写真を合成して1コマの映像にすることによって実現されていると考えられます。つまりこのカメラはほとんどの動画撮影モードで1秒間に120枚の映像を処理しているということです。

Insta360 Ace Proと他の小型センサーカメラとの低照度映像比較動画がYouTubeにたくさん上がっています。主な比較対象はGoPro Hero 12・DJI Action 4・iPhone 15 Pro Maxです。わたしの印象では、やはり「5ナノ」チップを搭載したiPhone 15 Pro MaxがInsta360 Ace Proと良い勝負で、その他は低照度下ではかなりはっきりした性能があります。

さて、やはり暗所性能に注目して買ったばかりのDJI Osmo Pocket 3とInsta360 Ace Proをどう使い分けて行くかがわたしの新しい課題になりました。雪が降りしきるの中の撮影や車のルーフなどに付けて撮る場合は、防水・防塵対応Insta360 Ace Proを使うことになります。他方疑似ドローン映像のようなジンバル特有のカメラワークを生かしたい場合は、DJI Osmo Pocket 3を使うことになります。

参考:

Insta360 Ace Pro Low-Light Comparison versus DJI Osmo Action 4 and GoPro Hero 12

低照度下の動画比較で、性能差は明らかですが、アクションカメラはもともと明るい陽光の下でアクションする自分を撮るために開発されたカメラで、暗い夜道の散歩を撮るためのカメラではなかったことを忘れてはなりません。

Insta360 Ace Pro: I shot this video 100% in full auto mode… This is the result

Insta360 Ace Pro の夜景動画の見本です。やや不自然に感じるほどきわめて鮮明で安定しています。なんとなく「重ね撮り」していることが分かるような気がします。更に「フリッカー」対策まで自動でやってくれるのは凄いです。そうするとNDフィルターは必要ありません。

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