世界のGDP長期推移

 

上のグラフは1970年から2020年までの50年間の世界全体のGDP(Gross Domestic Product:国内総生産)推移である。GDPは国内の経済活動で生じた付加価値(Valure Added)の合計である。付加価値は最終支払に見合うので、国内総生産の内訳は支出側項目(by expenditure)で説明される。主な支出項目は、家計消費支出・総資本形成・一般政府最終消費支出そしてネット輸出(輸出‐輸入)である。

上のGDPデータは、2015年USドル価格を基準に物価変動影響を遡って再計算したものである。2015年価格に引き直された世界のGDPは、1970年18兆1,108億USドル、2020年81兆4,725億USドルで、過去50年間で4.5倍に拡大した。世界全体では、家計消費支出が半分強、総資本形成が約4分の1、一般政府最終消費支出が2割弱で概ね安定的な構成で推移している。ネット輸出は世界全体では相殺されてゼロになるが、輸出と輸入すなわち貿易額は総資本形成と一般政府最終消費支出よりも大きく拡大してきた。工業製品の生産を賃金水準の低い国などに移して最適な国際分業を求めるグローバル・サプライチェーン再構築が行なわれ、中国が世界の工場として躍進を果たした

1960年代までアフリカはヨーロッパの植民地だった。独立を果たしたが飢餓や紛争が絶えず経済的発展がなかなかできなかった。わたしは1972年に大学の経済学部に進み「低開発国(LDC:less-developed countries)発展問題」ゼミに所属した。しかし当時はLDCの経済データはほとんどなく実態を知るすべがなかった。それから50年が経って、1970年まで遡れる国別データを国連が整備して公開しているのを見つけた。

https://unstats.un.org/unsd/snaama/Basic#

植民地だったLDCは1970年以降どのような経済発展を遂げたか確認してみたくなった。

さて、この50年間に1970年の37億人から2020年の78億人に世界人口は2.1倍に増加し、世界で生み出される経済的付加価値(GDP)は4.5倍に拡大した。世界の一人当たりGDPは4,895USドルから10,445USドルに2.13倍に増加した。しかし、経済発展は地域や国と時代により大きな違いがある。

上のグラフは、地域や国別のGDP世界シェアの推移である。ヨーロッパは、1970年40.54%から2020年24.06%に大幅に低下している。米国は、1970年28.64%から2020年23.62%に若干低下しているが、20世紀末まではほぼ維持されていて、シェア低下は21世紀に入って始まった。日本は、1970年8.06%から1991年9.98%をピークに低下に転じ2020年5.38%まで低下した。南アメリカは、1970年5.04%から2020年4.15%に若干低下した。

中国は、1970年1.28%から2020年17.96%に著しい拡大をとげた。21世紀に入ってから20年間の世界経済の拡大はほぼ中国によってけん引されたといえる。中国の著しい経済拡大によって、ヨーロッパ・米国・日本の世界シェアは低下したが、その他の世界は1970年13.32%から2020年19.59%に拡大している。国の規模は小さくても大きな経済発展を遂げている国がいくつもあるということである。

インドは、1970年1.14%から2020年3.13%にシェア上昇しているが、人口大国としてまだ中国のような飛躍の軌道に乗れていない。インドの人口は2023年に中国を上回り、ピークアウトするのは21世紀後半と考えられる。サブサハラ・アフリカは、1970年1.19%から2020年2.11%にシェア上昇しているが、こちらも飛躍にはほど遠い。中国の人口はピークアウトするが、インドは21世紀後半まで、サブサハラ・アフリカ諸国は21世紀の終わりまで、人口増が続く。サブサハラ・アフリカ諸国の人口は中国とインドを超えて増加する。

人口が多くて賃金が低いところはグローバル・サプライチェーン再構築の工場立地候補になる。中国は世界の工場として世界経済拡大を担ってきたが、一人当たりGDPが世界平均の1万USドルを越え、生産年齢層(25-64)人口はピークアウトして減少に転じ、一人っ子政策の影響で今後は急減していく。そのため労働力不足による賃金上昇が避けられない。反面、国内消費需要には拡大余地が大きい。中国の政府と企業は、サプライチェーン再構築候補地としてサブサハラ・アフリカをターゲットとし、携帯電話網整備・港湾整備・道路網建設・鉄道建設・電力開発などの開発投資を積極的に行なっている。中国が成功した経済発展モデルをアフリカに持ち込もうとしているのである。政情不安や透明性などにうるさいヨーロッパにくらべ、中国は具体的インフラ開発投資を失敗を恐れずにどんどん行うので歓迎されている。

そこで、あらためて中国のGDP拡大の実績をみてみる。

中国(台湾・香港・マカオを含まない中国本土)のGDPは、1970年2,312億USドルから2020年14兆6,320億USドルに50年間で63.2倍(世界は4.5倍)に急拡大した。リーマンショックの2008年までは主にネット輸出拡大が成長の原動力であったが、2009年以降は総資本形成が成長をけん引している。総資本形成が家計消費支出を上回る経済大国は他にない。鉄道・道路・住宅・ビルなどの建設が中国全土で凄まじい勢いで続いていて、まだ縮小する気配は見られない。2020年はパンデミックで家計消費支出と政府消費支出が減少したが、輸入減と総資本形成増加によってなお成長が維持されている。

開発投資過熱による金融危機と不況は、日本のバブル経済崩壊や米国のリーマンショックで経験済みである。中国でもこれらに似た状況が各所で起こっているように伝えられるが、これまでのところ全体の金融危機や不況には拡がっていない。パンデミック対策がそうであったように、国の力技で無理やり抑え込めているのであろうか。

インドもアフリカも、ヨーロッパの植民地旧宗主国の指導や介入では経済発展を全く実現できなかった。少なくとも中国の成功実績には大いに影響を受けていることは間違いない。しかし中国のように上手くやれるかどうかまだ全く分からない。

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