わたしは秋鮭には特別な思いがある。29歳だった1980年6月から31歳の1981年7月まで(つまり今から40年前)釧路の水産加工会社に役員の立場で出向したことがある。当時釧路は水揚げ量日本一を続ける大漁港で、大きく言えば「世界4大漁場」のひとつ「太平洋北西部漁場」最大の水揚げ漁港であった。季節に応じ北洋サケマス・いわし・さんま・スケトウダラなどが大量に水揚げされた。水産加工会社は工場の操業を維持するためほぼ全部の魚種を扱っていたが、会社の利益のほとんどは2か月ほどの秋鮭漁期に生み出されていた。だから経営戦略を考える上で秋鮭を徹底的に学び理解する必要があった。
サケ科の魚は学術上11属66種類以上あるとされる(他説もある)。一般呼称として用いられるサケとマスの境界は曖昧である。川で生まれ海に降下して大洋を回遊しながら成長し2~6年後(秋鮭は主に4年後)に生まれた川(母川)を遡上して産卵受精して死ぬもの(上図)が「一般に」サケと呼ばれる。他方何らかの要因で陸地の淡水域に封じ込められ(陸封され)そこで生息するようになった小型のものが「一般的に」マスと呼ばれる。しかし海で育つものでもマスと呼ばれるものがありマスと呼ばれるものにも大型のものがあるので、海と陸あるいは魚体の大きさでサケとマスが区分されるとはいえない。
日本の鮭缶に使用されるサケは小さな缶に詰め込めるかなり小型サイズの「カラフトマス」である。カラフトマスは外洋を回遊中に捕獲される。サケと同様産卵のため川を遡上するが必ずしも母川に遡上するわけではないともいわれる。北海道の小さな河川にも遡上する。北米ではピンクサーモンと呼ばれ最も美味なサーモンとされる。わたしも無添加の鮭缶のカラフトマスが抜きん出て美味しいと思う。
日本国内で作られるスモークサーモンの原料に用いられるのは輸入のキングサーモンで日本では「マスノスケ」と呼ばれ天然では最も大型のサケである。魚肉が紅いベニザケ・ギンザケ・マスノスケに対して魚肉の赤味が少ない秋鮭はシロザケと呼ばれる。北米では川に遡上するシロザケつまり「ブナザケ」をドッグサーモンと呼び最も美味しくないサケとされる。残念ながらわたしもそう思う。
近年回転寿司で最も人気がある寿司ネタは「サーモン」である。ノルウェー産の養殖アトランティックサーモンからはじまって消費者に普及したが、近年は海で養殖したニジマスである「トラウトサーモン(サーモントラウト)」も増えている。(上の写真)ニジマスは日本国内でも淡水養殖されるが流通量はきわめて少ない。陸封の小型のものはレインボートラウトとかゴールデントラウトと呼ばれ、降海型のきわめて大型のものがスチールヘッドと呼ばれるらしいが、いずれも身体に斑点があるニジマスである。近年スーパーによく並ぶ「トラウトサーモン」はチリの南極に近いパタゴニアの海で養殖された大型のニジマスの「商品名」である。これに対しノルウェーの北極に近い海で養殖された大型のニジマスの「商品名」は「サーモントラウト」という。マグロの大トロのように脂ののりが良いので回転ずしで「トロサーモン」という「商品名」で売られることもある。
日本の川に大量に遡上するサケは秋鮭(シロザケ)だけである。かつて日本の漁船が洋上で「沖獲り」していたベニザケ・ギンザケ・カラフトマス・マスノスケ(キングサーモン)などはほぼ日本以外のロシア・アラスカ・カナダの川の生まれである。「沖獲り」が制限されるようになって以降は秋鮭以外のサケマスは輸入品に代わり、今は完全に輸入が主になっている。
2017年の「輸入通関『金額』」ベースの主な輸入先は、①チリ②ノルウェー③ロシア④米国⑤その他である。ロシア・米国などからの輸入品は従来と同じ「天然」もののベニザケ・ギンザケなどであるが、チリとノルウェーはほぼ全てが「養殖」ものである。サケマスの消費額は大きく伸びており、それをけん引しているのはチリとノルウェーの養殖ものである。消費者はもっぱらサーモンと呼ぶようになり、鮭と呼ぶのは年配者かあるいは秋鮭を含む天然ものだけを指すようになった。
2021年の今年もそうであるが、近年北海道では秋鮭漁獲量が減っているという報道がされる。どのくらい減ってきているのか調べてみるとなんと1970年から2020年までの半世紀の推移資料がみつかった。
「国立研究開発法人水産研究・教育機構 北海道区水産研究所」
『サケの放流数と来遊数及び回帰率の推移』
http://salmon.fra.affrc.go.jp/zousyoku/ok_relret.html
この資料の「来遊数」(千尾)は海面・淡水面をあわせた捕獲数である。「放流数」は1~6月までに放流された稚魚の尾数(右目盛百万尾)であるが、サケの多くは4年後に生まれた川に回帰するので、この資料ではその年に放流された尾数ではなく「その年の4年前に放流された尾数」を折れ線グラフで示している。そして4年前の放流数に対する来遊数の比率(%)を「回帰率」と呼んでいる。
1975年や2018年はその4年前の放流数が前後の年より多かったことが来遊数に反映している。しかし長期間の大きな傾向としては放流数と来遊数に明確な相関関係はみられない。長期間の大きな傾向としては回帰率の上昇によって来遊数が大幅に増加し、その後回帰率の低下によって来遊数が大幅に減少している。1996年に4.5%の最高値となったが、2016年以降は2.0%を超えることがなくなり2020年は過去最低の1.1%まで落ち込んでいる。





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